01. すれ違いの醍醐味 (シリウス/二人とも何かしら仕事しているという設定)
朝起きて、職場に出勤する準備。
服を着替えて顔を洗い、二人分の食事を作る。
一つは私の朝食。
もう一つは、彼の昼食。
一人食卓について手を合わせていただきますを言って朝食を食べて、その後歯を磨く。
それなりにメイクして鞄の中に必要な物を入れる。
忘れ物はない。
長い髪を一つに束ね、書置きを残す。
"昼ご飯を作ったから、起きたら食べて。お皿はちゃんと洗っておいてね"
よし、これで準備万端。
ブラックの部屋のドアを開けて、未だ夢の中の彼のの寝顔を覗き見る。
よく寝てる。
いつも通り夜遅くに帰ってきた彼の目覚めは恐らく昼近くになるだろう。
「いってきます」
静かな部屋に私の声はよく通る。
はっと目が覚める。
もやのかかったような頭を何とか働かせて壁にかかった時計を見る。
十二時過ぎ・・・。
昨日も仕事が遅くまで長引いてしまい、帰って来たのは夜中だった。
あくびを噛み殺しながら洗面所へ行き、顔を洗って強引に目を覚ます。
冷たい水が心地好い。
目の前の鏡には、まだ眠たそうな寝癖の酷い男が映っている。
疲れた顔をしている。
リビングのテーブルには、いつも通り俺への食事が既に作られていた。
そしていつも通りの書置き。
"昼ご飯を作ったから、起きたら食べて。お皿はちゃんと洗っておいてね"
たった一人食卓につくと、手を合わせていただきますと言って食べ始める。
食事をとるときにいつもしていた同居人の習慣を、いつの間にか自分もするようになっていた。
最近、と会話も殆ど交わしていないことに気付く。
俺は昼から出勤で、仕事場で夕飯を食べて帰宅は深夜になる。
一方の彼女は朝から出勤で、仕事場で昼飯を食べて俺が出勤した後に帰ってくる。
今日は俺は休みだから、夕飯は一緒に食べれるな。
「ただいま!」
自分でも驚くぐらい明るい声が出た。
リビングの椅子に座って本を読んでいたブラックは、私に気付いて顔を上げる。
「おかえり、・・・なんだよ、買うモンあるんなら俺が行ったのに」
私の手の中の、近くのマグルのスーパーマーケットの名前が印字されている袋を見て彼はそう呟いた。
「良いって、君は疲れてるんだから」
ぱっと顔を上げて、改めて彼の顔をまじまじと見た。
しばらく見ないうちに、少し髪が伸びた。
ちょっと疲れた顔をしている。
今日は久々の休みのせいか、彼の服装はかなり適当だ。
学生時代、浮名を流していたブラックを思い出す。
そんな彼に熱を上げていた女子生徒達が、このちょっとおっさん臭くなったブラックを見たらどう思うだろう。
想像するとおかしくなって、クックと小さく笑う。
「人の顔見て何笑ってんだ」
頭の上から抗議の言葉が降って来た。
「いやいや、君も老けたね」
カラカラ笑いながらキッチンに向かうと、後ろから文句が飛んできた。
「この男前をつかまえて老けたとは何だ」
「ハイハイ、かっこ良いかっこ良い」
最近全然会話していなかったけれど、久し振りの会話だからこそこれだけ楽しくもあり、新鮮でもあり、嬉しいんだろうなあと思う。
毎日顔をつき合わせていたらきっと気付かなかったであろうこの嬉しさを、今しばらく噛み締めた。
←
これは恋人でもいいし、単にルームシェアしてる友人同士ともとれますね。
20070227