彼 の 者 の 血 を 受 け 継 ぐ 少 女
異国の地に舞い降りた一人の魔女の物語





32 See you soon!

帰りの列車の中。私はセブルスと同じコンパートメントにいることにした。
リーマスはきっとブラックたちと過ごすだろう。
その中に私が割って入るのもどうかと考えて、結局同じスリザリンのセブルスと同席することにした。

同じ、とは言ったものの、それぞれ好きに本を読んだりぼーっとしているだけなので、お互い空気のような存在感しかなかった。話も交わさなかった。
唯一交わした言葉といえば、駅に着いたときに「また新学期に」と私が言ったときに彼が「ああ、また」と返したときのその言葉だけだった。

その辺りがいかにもセブルスらしいと言ってしまえばそれまでだがもっと何か言うことがあるだろう。

全く気の利かない奴だと不満を抱きながら、私はポートキーの場所へと向かおうと改札を出た。

そこで、リリーに呼び止められた。



!久し振り」
「リリー!」

リリーは相変わらず他を魅了するような笑顔を浮かべていた。友人たちとは一緒におらず、一人だ。改札を出たので分かれたのだろう。
大荷物を持った二人が一緒にいるのはかなり目立った。私たちは駅の隅っこへと移動した。


リリーは開口一番、こんなことを言った。

「一年生の一番って、貴方でしょう」

一瞬、何のことを言っているのか、判らなかった。
少し考えを巡らせてから、やっと話がこの間の進級試験の結果についてのものだということに気付いた。私は曖昧に頷いた。

「うん、まあ・・・」
「やっぱり!グリフィンドールでね、私が一番だって期待されてたんだけど、私は自分が一番だと思っていなかったの。多分、貴方だろうなって」

「期待されていた」の部分で、少しだけ、ほんの少しだけ彼女の表情が曇る。
さぞ期待がかけられただろうと思うとリリーに同情の念を抱いてしまう。

私は元々点を稼ぐ側だったが、寮内では嫌われていたためにあまり期待されていると感じるような雰囲気や言動はなかった。

それに私には必要の部屋がある。
あそこで好きなだけ勉強できたし、好きなだけ実技の練習もできた。
そういう数々の有利点が、私を一位にしたのだろう。
だから、言うなれば私は運が良かったのだ、きっと。

「ポッターの悔しい顔といったら、貴方に見せたかったわ」

リリーは輝くような笑みを私に向けた。
どうして彼女はこんなに喜んでいるのだろう。
ポッターに対して個人的な恨みでも抱いているのだろうか。

不思議そうな顔をする私に気が付いたのだろうか、彼女は口元に手をやった。

「ふふ、ちょっとはしゃぎ過ぎちゃった」

悪戯っ子のようにリリーはウインクした。
そして周りを念入りに見回した後、私に耳打ちした。

「私ね、ポッターが嫌いなの」
「そうなの?」

私は驚いた。ポッターが誰かに嫌われる人間だということに驚いたのではない。
彼の性格上誰かに嫌われることも、まああるだろう。私もあんまり好きではない。最初の頃のブラックに比べれば、まあマシといったところだ。

そうではなく、私はリリーが誰かを嫌うことが信じられなかったのだ。

「ええ。あの人、かっこつけだし傲慢だし我儘だし、もう何につけても腹が立つの」
「へえ・・・」

かっこつけで傲慢。
かっこつけなんて男の子ならよくあることだし、そもそも傲慢という言葉が彼と結びつかなくて困った。 リリーの心底憎いという言い方から、余程嫌っているのだろう。
私はグリフィンドール内でのポッターを知らないから、何も言えない。もしかしたら外の顔と寮内の顔の二つを持っているのかもしれない。

「傲慢・・・なの?」
「ええ、傲慢よ。自分よりも能力が劣ると見なしたり、嫌いだと思う人に対する態度がすごく失礼なの。自分はできるか知らないけれど、それができない人だっているのに、その人たちがとても不快になるようなことを平気でぽんぽん言うの。ああ、腹が立つ!」

ここまでリリーに言わせるポッターを、ある意味尊敬する。
まあそれだけ酷い人なんだろう、彼は。
これからの学校生活で、そういう態度が人と接する際には非常に好まれず相応しくないということに、いつか気付けば良いと思う。

他人から指摘されて気付くのは簡単だが、彼はそれを認めないかもしれない。
自分で気付くのが一番良い。
自分で気付いて、直す努力をしないと意味がないのだ。

「でもね、貴方がそんなポッターの鼻っ柱を折ってくれたの!」

リリーは私の手を取り力を込めて握り締める。少し、痛かった。

「私が・・・?」
「そうよ。彼、グリフィンドールの一年生が絶対一位だって信じてたみたいだから、スリザリンに首席を取られてとても悔しがってたのよ。特に彼は自分で一位を取るつもりだったみたいで、僕に期待して良い、とか何とかって。全く勉強なんてしてないくせに口ばっかり。あんなに落ち込む彼を見たのは初めてよ」
「それは・・・、良かったのかな、悪いことをしてしまったかな」
「いいえとんでもない!彼には良い薬よ。聞けばブラックにも成績負けたみたいだし、これを期に、少しは性格もマシにならないかしら・・・」

何から何まで腹が立つような人と同じ寮を過ごさねばならないとは、リリーも不運である。
再びリリーに同情の念を抱いた。
かと言って彼女が私と同じスリザリンに来る訳にもいかないし。
というか、他の寮に変わることもできないし。

七年、・・・いやあと六年一緒に過ごす彼女とポッターを思って私は心の中で合掌した。
どうか争いが起きませんように。


「ごめんなさいね、こんなくだらない話しちゃって・・・。彼、意外に女の子に人気があって、同じ寮の子にこんな話、できなくて・・・。誰かに聞かれちゃったら大変」
「いや、くだらないなんてとんでもない。私で良ければ愚痴でも何でも聞くよ。私には、頑張ってね、ぐらいしか言えないんだけど」
「そんな、話を聞いてくれるだけで充分!ありがとう、少しスッキリした」

リリーはそう言うと私をギュっと抱き締めた。
相手は女の子なのだから恥ずかしがる必要なんてないのだけど、日本にこんな習慣はないから、私の心臓は大きく跳ねた。

「また九月に会いましょう!」
「うん、また・・・」

照れや驚きのためか、上手く言葉が出て来なかった。
リリーは私から離れた。リリーは何でもないという顔をしている。
私だけが照れていたという事実に少し恥ずかしさを覚えた。

「じゃあ、またね!」

手を振りながら駅の外へと出て行く。その先にいるのがきっと彼女の両親だろう。リリーは両親に笑顔で何か話している。きっと学校であった楽しいこととか色々喋っているんだろうな。

彼らを少々複雑な気持ちで私は見つめた。


・・・早く帰ろう。侑子さんが待ってる。

私は歩き出した。




次にここへ来るのは九月。



 



20070226