彼 の 者 の 血 を 受 け 継 ぐ 少 女
異国の地に舞い降りた一人の魔女の物語
31 お久し振り
一年生が終わる。
この一年は私が生きてきた中で一番早く過ぎ去った一年だった。
ことの始まりは、不思議な雰囲気を持つ御老人、アルバス・ダンブルドアが侑子さんの店を訪れたときだった。知らされていなかった私の出生や両親のことなどを教えられた。そして、その場で私はこの学校へ入学することを決めたのだ。
夏休みが始まる三日ほど前に、校長先生に呼ばれた。校長室に初めて入ることになる。私は緊張していた。
校長室に入ると、至るところから視線を感じて私は戸惑った。校長室には歴代の校長の絵が飾られていて、どれも私を好奇心溢れる眼差しで見つめた。
用途が判らない様々な道具が置かれていたりして、触りたくて仕方がなかったが、ここに来たのは先生に呼ばれたからなので我慢した。
部屋を見回すと、止まり木に止まっている一羽の赤い鳥に気付いた。それは私をその円らな瞳で捉えた。私も、その目をじっと見つめた。
「それは不死鳥じゃよ、」
目を細めて笑みを浮かべる校長と目が合った。
不死鳥・・・。日本でいう、朱雀のようなものだろうか。そういえば、私の杖には青龍の髭が使われていたことを思い出した。
少し、この不思議な鳥に一方的な親近感を抱いた。
「よう来てくれた、座りなさい」
校長は杖を振った。何処からか、私の後ろに椅子が現れた。私はその高級感溢れる椅子にゆっくりと座った。フカフカしていて座り心地が良かった。
「試験では、学年で一番の成績を取ったらしいのう。素晴らしい」
「いえ、そんな・・・ありがとうございます」
私は深く頭を下げた。正直のところ、あの成績には私が一番驚いていた。
呪文学や魔法史はかなり良い結果が期待できると思っていたが、変身学などは一番なんて夢にも思っていなかったからだ。
聞くところによると、変身術の実技試験では、グラスに色がついていたり、透明のガラスにはなったが、形が変わっていなかったりなど、ユニークなワイングラスが出来上がっていたらしい。マクゴナガル先生は淡々としていたが、それはどの生徒にも同じ態度だったようだ。
「マクゴナガル先生も褒めておった。一年生であれほどまでに完璧に変身させられた者を、今まで見たことがない、とな」
あのマクゴナガル先生が、私を?
確かに私が変身させたのは紛うことなきワイングラスだったが、他にも変身させた者は、少ないだろうが、存在すると思っていた。
けれど、先生の言葉が本当ならば、私だけということになる。
私は視線を床に向けた。
「そ、そうなのですか、そんな、身に余るお言葉・・・」
「君は頭が良いから、こんな忠告は無用じゃろうが・・・、決して今回の出来に溺れて、向上心を無くすでないぞ」
先生の目が厳しいものになった。私は背筋を伸ばした。
「勿論です」
先生は再び表情を緩めた。
「ところで、この一年どうであった」
先生は再び杖を振ると、テーブルの上に二つのティーカップが現れた。どうやら紅茶のようだ。先生はその内の一つを手に取って私にウインクをした。
飲みなさい、ということか。私はそう推測して残りのカップを手に取る。
「日本とは違う生活様式で大変じゃったろう」
「いえ、結構楽しかったですよ。珍しいものがたくさんあったし、絵が動いたり階段が動いたりするし、自然がたくさんあって気候も心地好くて、良いところですね、ホグワーツって」
実のところ、食事が少々私の口に合わなかったりすることはあったけれどあえてそこは伏せておいた。
私の言葉に先生は嬉しそうに目を細めた。
「そうかそうか、それは良かった。いや、日本からの生徒は数えるほどしかおらんかったから、少々心配だったのじゃ」
「それはお気遣いありがとうございます。私は大丈夫です」
先生はそれから学校生活について色々お聞きになったので、それに答えたりしていた。友人はできたのかとかそういう他愛もないことを色々聞かれた。こんな話を聞いて楽しいものかと思ったが、先生は相変わらずニコニコしているから楽しいのかもしれない。だから私も始終明るく過ごすことができた。
「侑子さんに宜しく言っておいてもらえるかな」
帰り際の先生の言葉に、私は頷いた。
本当に疑問に思う。
先生と侑子さんの間にはどんな関係があるのだろうか。そもそも侑子さんは何歳なのか。
きっとこの疑問は一生解決することがないのだろう。それだけは予測できた。
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あってもなくても良い話。
わざわざお忍びで直接手紙を渡しに行くぐらいだから、このぐらいはするだろうということで。
20070226