彼 の 者 の 血 を 受 け 継 ぐ 少 女
異国の地に舞い降りた一人の魔女の物語





30 学年首席とシーカー候補

「うん、私が一位だった」

事も無げに言ってのけたの手にある成績表を手に取り、まじまじと覗き込んで、僕は言葉をなくした。まず、見たこともないような点数がずらっと並んでいる。そして、有り得ない点数が所々に混じっているのだ。百点満点のテストで、どう頑張ったら百十二点を取ることができるのだろう。
殆どの教科の順位の欄に並ぶ「一位」の文字に、目が眩む。
僕の様子を見たは楽しそうだった。

「ふふ、そんなに素直な反応をしてくれるとは」
「いや、僕じゃなくても同じような反応だと思うよ、すご過ぎるよこの成績」

もっと詳しく成績表を見る。
魔法薬学と天文学はエヴァンスが一位を取っているが、の表には天文学は五位、魔法薬学は三位と書かれてあった。他の教科は、全て一位だった。
成績表をに手渡した。エヴァンスの成績表も見せてもらったけれど、二位の彼女ですらこれに届かないくらい、の成績は二位以下を引き離している。

「頑張ったからね」

清清しい笑顔が、テスト前の勉強の大変さを物語っている。
恐らく、彼女は天才だ。しかし、「何もしなくても勉強ができる」という意味の天才ではなく、「弛まぬ努力を継続することができる」という天才なのだ。彼女はいつも何てことないって表情で平気な風を装っているが、きっと心の中ではテスト前のシリウスのように覇気を失っていたに違いない。

「おめでとう」

彼女はスリザリンだ。それに、念願の首席を、グリフィンドールは取れなかった。そういうことが頭にあるにも関わらず、僕は素直に彼女を祝福できた。悔しいよりも嬉しさのほうが勝っている。そして、そんな彼女の友人でいる自分を誇りに思える。は照れ臭そうに「ありがと」と返した。そう言えば、最近彼女の口から「ありがとう」の言葉を聞くことが多くなった。以前の彼女なら、こういう状況になると曖昧にはにかんだりするだけだったのに、今はちゃんと言葉で返す。曖昧な態度や、場違いな謝罪に僕は悲しくなったり、もどかしさを感じていたが、今の彼女にそれはない。僕は嬉しくなった。








「じゃあ、やっぱあの子が一位だったんだ」

ピーターはやっぱりという顔をしてシリウスを見た。シリウスはそんなピーターを無視した。シリウスは特に何とも思っていないようだ。彼は、前ほどを嫌っていないようだ。以前のシリウスであったら、の話題が出るとあからさまに顔を歪ませて舌打ちをしてその場を離れていくぐらい嫌っていた、いや、寧ろ憎んでいたようだったが、今は随分穏やかだ。

「結局、スリザリンに首席を持ってかれたってことだね」

悔しさを隠そうともせずジェームズはそう吐き捨てた。シリウスがニヤニヤとも、ニコニコともとれる笑顔でジェームズに近寄る。

「まーまー、そうスネんなよ。お前はテストよりも気になることがあったんだろ?」
「何かあったの?」

ジェームズの刺々しさが、シリウスの言葉によって和らいだ。「テストよりも気になること」が原因なのは明らかだ。ピーターも不思議そうな顔をしている。ジェームズは先ほどの不機嫌さはどこへやら、今度は得意げな顔で僕らの顔を見回した。

「よくぞ聞いてくれたねリーマス。実は、クィディッチのキャプテンからシーカーにならないかって打診が来てるんだよ!信じられるかい?僕がシーカーなんて。まだ決定した訳じゃないけどね。それでももしかしたら二年生になったら、僕があのスタジアムで飛び回ってるのかもしれないんだ!」
「すごい!」

即座に素直に喜んだのはピーターだった。心からの感嘆にジェームズは心底嬉しそうにしている。いつものジェームズの自慢話ではあるけれど、今のジェームズの言葉には自分をかっこ良く見せようという意図はなく、ただ純粋に嬉しいらしい。そんな彼を見たのは久し振りだった。

「すごいね、おめでとう」
「ありがとう、でもまだ決定じゃないから、まだ喜んじゃいけないんだろうけど、やっぱり嬉しいな」

いつものジェームズじゃないみたいで不思議だった。チラリとシリウスを見ると、シリウスもこちらを見ていたようで、視線がかち合った。

「ジェームズが素直に喜んでるって、すげー違和感」

小声で僕に言ったシリウスの言葉に、僕は大げさに頷いて、笑った。

 



20070217