彼 の 者 の 血 を 受 け 継 ぐ 少 女
異国の地に舞い降りた一人の魔女の物語
4 シーカーは誰だ
三年生になったこの年、スリザリンでは大きな問題が浮上していた。
それは、クィディッチのシーカーがいないということだ。
去年までのシーカーは卒業してしまった。けれど、後継者は全くと言って良いほど育っていなかった。
シーカーは人気のあるポジションではあるが、危険も多く、難しい。一応やりたいと言う人はいたのだが、スニッチを捕まえろといっても一向に見つける様子もなく、不適格と判断して全て選考会で落としたのだ。
スリザリンが最も憎むグリフィンドールのシーカーは去年に引き続いてジェームズ・ポッター。彼はずっと優勝争いから遠退いていたグリフィンドールを優勝に導いた。
彼に対抗でき得る人材をシーカーに引き入れたかったが、それに当てはまるような人物などキャプテンに心当たりはなかった。
結局、クィディッチのレギュラーはシーカーを除き決まったのだが、シーカーがいなければ試合に出ることができない。しかし、もう誰も立候補する者はいなかった。手を尽くしてもどうにもならず万策尽きたチームのキャプテンが、とうとう寮監に相談に行った。
そして寮監から出た名前が、私に波乱をもたらした。
「ミス・に出てもらえば良い。彼女の父親も素晴らしいシーカーだったし、彼女が飛んでいるのを見たことがあるが、非常に素晴らしかった」
「・・・と、そうおっしゃっていたのですか、先生は」
「あぁ、残念ながら」
先生がその言葉をキャプテンに言った。それだけならばまだマシだった。
その発言がなされたのが食堂での夕食時だったのが、そもそもの不幸の始まりだった。
私がシーカーに推されたことは、スリザリンでなくともどの寮の人も耳にしたというぐらい有名なものになってしまっていた。私はレイブンクローやハッフルパフ、それに一部のグリフィンドールの人たちに「頑張れ」とエールを貰ったのだけど、まだ私は首を縦に振ったわけではないから微妙な笑みしか返せなかった。
一番反感を示したのは同胞であるはずのスリザリンだった。
元々スリザリン生の一部の私に対する風当たりは良いとは言えなかったが、それが一層きつくなって私は正直しんどかった。
その内容は、「どうしてお前なんかが」というものと、「断ったらどうなるか判っているだろうな」というものと二種類ある。どうすれば良いのだろうか。是非とも彼らに聞いてみたいものだ。
「どうすれば良いでしょう、ミスター・パーカー」
「ううん、どうにも、こんなに騒ぎになってしまうとは思っていなかったものだから、さて・・・」
スリザリン生は、私に対して無関心を決め込むかもしくは徹底的に嫌悪するかの二つが大部分を占める中、キャプテンのマーク・パーカー氏は、珍しく私に敵意を向けない人であった。私の考えに理解を示してくれて、拒絶しなかった人当たりの良い人間だ。
彼も純血主義には賛同できないらしく、私の存在をとても喜んでくれた。彼は私とは違って、表面では純血主義を演じているらしい。けれど決してそんなことはないのだよと、こっそり教えてもらった。
二年生になって私と口を聞いてくれる人が多少増えたけれども、それでもスリザリンは殆どが私に反感を持っているであろう人ばかりであったのだが、私に味方してくれるような人が一人増えたという訳だ。
「申し訳ない、あんなところで先生に聞かなければ…」
表情を暗くして所在なさ気に謝るパーカー氏を制す。
「先輩は悪くありません。誰も悪くはない。きっとあの日はツイてなかったんですよ」
そう、これは誰も悪くはない。
それに私は怒っても、哀しんでも、恨んでもいない。
仕方のないことだったのだと諦めている。
「それは災難だったね」
とリーマスは苦笑した。
彼はこの学校で最初にできた友人だった。私がスリザリンに入っても、変わらず友人でいてくれた彼を私は嬉しく思っている。スリザリンの私とグリフィンドールの彼という間柄故に、私たちはあまり公の場で会うことはできない(こう書くと政敵同士の親を持つ恋人のようだ)が、図書室で一緒に勉強したり、人の少なくなった中庭などで近況を話し合ったりは依然としてし続けている。
「で、どうするの」
「シーカー?うーん、私にできるのかな」
先生はああ言っていたが、自分自身の中で、自分がそこまで飛ぶことが上手いとは思えないのだ。
スラグホーン先生は私を殊更過大評価なさるのだが、その評価に見合った行動を取れているのか、どうにも自信が持てない。
先生はことあるごとに私をナメクジ・クラブにお誘いになるのだが、私はずっと断り続けていた。まあそれは、ただ私がそんなものに参加するのが面倒なだけなのだが。まあともかく、先生は私をシーカーに推していらっしゃる。
飛行術の授業のときの自分を思い浮かべてみた。
そういえば、思い切り勝手気侭に飛び回ったことはない。ただ先生の出す課題をこなすのみである。その課題すらも満足にこなせない人がいることを考えると、私は割と上手いほうではあるのだろうが、その程度の上手さの生徒は他にもたくさんいるだろう。私よりも他に適任者はたくさんいるはずだ。
「お父さんは上手かったんだよね」
「らしいね。でもだからと言って私が父と同じように飛べるとは限らないよ」
私は肩を竦めた。
「でもが飛んでる姿見たことあるけど、上手かったよ」
「そう?」
ちょっと私は嬉しくなった。
照れくさくて、視線を外して小さくありがとうと呟いた。
「だけど、私がシーカーになってしまったら、スリザリンの人も応援するにできないんじゃないかなあ」
「まさか、クィディッチは別だよ」
リーマスは有り得ないと言って笑ったが、さてどうだろう。
応援はしてくれなくても構わないから、せめて静かにしてくれたら…、ブーイングとかされなかったらやっても良いかな、ぐらいには気持ちが傾き始めていた。
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20070404