「ねぇセブルス」
「何だ」
「私ってすごいのかな」

呆れたような、訝しげな彼の視線を受けて、私は質問の仕方がまずかったのかもしれないと反省した。








彼 の 者 の 血 を 受 け 継 ぐ 少 女
異国の地に舞い降りた一人の魔女の物語





23 寮生はあたかも敵軍の如く

彼、セブルス・スネイプとはスリザリンで唯一の話し相手だ。
最初はスネイプと姓で呼んでいたが、何だかそれも他人行儀な感じがして、
名前で呼んだら何も言われなかったから、それ以来名前で呼んでいるのだ。
彼は私のことを変わらずと呼ぶけれど、彼と私の距離は最初に比べて少しだけ近くなった感じはする。


ただ、これは単なる契約である。
話し相手のいない、そして授業で二人一組になるときに組む相手のいない私と彼との、単なる契約。

一時期は私たちは付き合っているのかとスリザリンの一年生内で噂が立ったこともあったが、
私たちのあまりにも淡々とした間柄に、それは有り得ないとすぐにそれも消え失せたようだった。



そんな彼と談話室で勉強中、彼に唐突に尋ねたのだ、冒頭のように。

「いやね、私結構色んなところで噂になっているみたいなんだ。でも私自身はそんな噂になるようなことしたつもりはないから」
「つもりはないだって?変身術の授業でうっかり机を犬小屋に変えてしまったり、闇の魔術に対する防衛術で、先生の机の引き出しから突然現れたまね妖怪を、まだ習ってもいない呪文で退治してしまったような君が「そんなつもりはない」なんてよく言えたものだな」

セブルスはその長い台詞を言い切ると、フンと鼻を鳴らし、じろりと私を睨んだ。
私は苦笑した。

「いや、別にそんなつもりじゃあ・・・」
「じゃあ何だと言うんだ。嫌味のつもりなのか」

私は完全に宿題をする手が止まってしまっていたが、彼の手は止まることをしない。
まるで手と顔が別の人格で支配されているように、澱みなく口は動くし澱みなく手は字を記すのだ。

「ともかく、そんな噂が立つものだから、スリザリンの生徒の私に対する風当たりは一段と冷たくなってしまったよ。私はスリザリンのことが嫌いなのにスリザリンには私の行いのお陰で点数が入る一方。こんな理不尽なことはないよ全く」
「君は莫迦か。こんなスリザリンの真ん中でスリザリンが嫌いだと言うな。今以上に嫌がらせが増えるぞ」

その忠告に、私は溜息を吐いた。


最近、何者かからの嫌がらせが後を立たない。
それはもう、自分の部屋で安心して寝られないほどに。
スリザリンの生徒の仕業だということは判ったのだが、
それが判ったところで対処しようもないから、
仕方なしに最近はいつも必要の部屋で眠ることにしている。
嫌がらせというのもこれまた陰湿で、
上から水が降ってきたり卵が私に向かって飛んで来たりするのだ。

「大丈夫だよ、最近はあしらうのにも慣れたし、前みたいに教科書が破られることも、・・・多分もうない」


前みたいに、というのは、置いていた教科書をビリビリに破かれたり焼かれたりしたというものだ。
この時は流石に困った。
何せ、教科書がないと授業ができない。
まだ殆ど使っていない真新しい教科書をもう一度買わなければいけないというのは面倒だし納得いかないことではある。

けれど、注文して新しいものを買ったのでそれは何とか収まった。
ふくろう便で注文できることを、スリザリンの寮監でもあるスラグホーン先生から教えてもらったのだ。


何にせよ、私はもう二度と自室に教科書や自分の私物諸々を放置することはないだろう。
そういうものは全て必要の部屋に置いたり、別の隠し部屋などに置くことにしている。


そういう収納場所を探していたら、ホグワーツにある様々な抜け道や隠し部屋を数多く見つけた。
恐らく、この学校で私ほどホグワーツの間取りを把握している者は・・・校長以外にはいるまい。

私はそういう抜け道や隠し部屋を見つけたとき、本に書かれた学校の間取りを書き写し、そこに部屋の位置を書き込んでいった。
私はそれを常時持ち歩き、携帯している。
それはなかなか便利なもので、フィルチなどに見つかりそうになったときには隠し部屋に飛び込んで難を逃れたりしているのだ。

フィルチも何年この学校に勤めているのだろう。
どうしてここに来てまだ二ヶ月ちょっとの小娘が、何十年とこの学校で働く彼よりも多くの部屋の在処を知っているのだ。

全く、この世は斯くも不思議なことだらけだ。


「あまり油断するなよ。組になって作業しているときに君が何か嫌がらせを受けたら、君だけでなく僕も被害を受けるのだからな」

どこまでも自分ありきのセブルスの物言いに思わず苦笑いを零す。
そのセブルスはと言うともう宿題が終わってしまったようで、立ち上がって自室に戻って行ってしまった。
おやすみとか言ってくれても良いじゃないかと思いつつ、完全アウェーの状態の談話室から私も立ち去った。


まだ宿題が終わったわけではなかったが、仕方がない。
セブルスと一緒でないととてもじゃないが恐ろしくて一人で談話室なんていられない。

何をされるか、判ったものじゃない。



ああ、全く(不本意ながらだが)点数稼いでやってるんだから、少しくらい感謝の気持ちを見せてくれたって良いじゃないか。


心の中で不満をぶちまけつつ、必要の部屋へ向かう。

宿題はそこでしよう。

 



20060925