彼 の 者 の 血 を 受 け 継 ぐ 少 女
異国の地に舞い降りた一人の魔女の物語
22 Side B 子供じみた感情
は最初、あまり目立たない生徒だった。
他にも目立つ生徒、例えばジェームズとかシリウス、がいたから、彼女の日本人の風貌は珍しかったが、話題に上るほどではなかった。
しかし日数を重ねる内、彼女は多くの同級生の話題に上るほどまでに有名になっていた。
例えば、僕が知っているだけでも、変身術の授業では彼女だけがマッチ棒を針に変えることができたし、魔法薬学の授業では矢継ぎ早に出される先生からの質問にすらすらと答えて他の生徒たちを驚かせたし、呪文学の授業では物体浮遊魔法の練習で、机を天高く浮かせていたと噂で聞いた。
これだけでもかなりのものだが、僕の知らないものもあるだろうから、実際はもっとすごいことを多くやってのけているのだろう。
は多くの点数を稼いだ。
恐らくどの同学年よりも多くの点数を。
それが彼女を殊更有名にした。
ジェームズやシリウスも勉強はできたし点数も多く稼いでいたが、悪戯のために折角稼いだ点数を減らしもしていた。
だから、合計ではが稼いだ点数のほうが多いのだ。
上級生に彼女がどう映っているのかは知らないけれど、彼女は僕たち同級生の間ではかなりの評判になっていた。
無論、グリフィンドールの生徒はそれを良く思ってはいないから、評判と言ってもそれは中傷に近いものがあるのだけれど。
ある日と会ったときのこと。
シリウスの一件で暫く会いづらく、彼女を見つけると顔をそらしてなるべく目を合わせないようにしていた。
何もかもが申し訳なく、とてもじゃないが彼女と話をする気になれなかったのだ。
しかし偶然目が合ったときに、は前と同じように笑顔を浮かべた。
そのとき自分は何となく、許されたような気がして、またと図書室で会って一緒に勉強したり、談笑するようになった。
今日も図書室で勉強中、僕は彼女が有名になっていることについて聞いてみた。
「最近よくの噂を聞くけど」
「あぁ、うん、そうみたいだね」
は完全に他人事のような口振りだ。
自分の噂を他人から聞くということがないからかもしれない。
何故なら、彼女はスリザリンの生徒に友人はスネイプ以外は全くと言って良いほどいないはずだからだ。
「いやね、他の寮の人、そうだね、ハッフルパフやレイブンクローの人とすれ違ったり、合同授業だったりするときに、よく声を掛けられるんだ。「すごいね」とか、「スリザリンで肩身の狭い思いをしているんだってな。頑張れよ」とかまで」
彼女自身戸惑っているようだった。
ずっとひっそりと目立つことなく生活していた彼女が、一躍脚光を浴びることになったのだ。
それは彼女の才能に起因しているのだから誇りに思って良いと思うのだけど、はそうは思わないらしい。
「面倒なんだよね、いちいち愛想笑いして返事するのが」
口ではそう言っているけれど、多分声を掛けられることを、面倒だとは思っていないに違いない。
前にに会ったときよりも、今日の彼女のほうが断然生き生きして輝いている。
誰とも話すことなく、誰とも交流することなく、人は生きて行けないのだ、やはり。
「リリーにも、こんな噂が立っているよって色々言われてねぇ。その中には間違った噂もあったりしてね、あ、リリーって知ってるかな、グリフィンドールの女の子なんだけど」
「エヴァンスと知り合いなの?」
意外な人物の名前がの口から出て、僕は驚いて聞き返した。
は嬉しそうにはにかんで、うんと小さく頷いた。
何だ、僕が知らないだけで友人をちゃんと作っているのか。
嬉しそうなの顔を見ながら嬉しく思う反面、ほんの少しの寂しさを感じた。
「リーマス、どうかした?」
名前を呼ばれてはっと意識を戻す。ぼんやりしていたようだ。
「ううん、何にも・・・」
僕は気付いた。
さっきみたいに何も考えずに笑うことができない自分に。
に友人ができた。
それは本来喜ぶべきことなのに、僕はあまりそれを祝福していないようだ。
何故だろう。判らない。
僕があまり会話に乗り気でないのが伝わったみたいで、は早々に会話を切り上げた。
あぁ、悪いことをした。は何も悪くない。悪いのは僕だ。
僕があまりに子供だから。子供じみているから。
そうだ、こんな気持ちを僕は知っている。
随分昔に持っていた、あまりにも子供っぽい愚かな感情。
独占欲。
我儘。
そんな感情だ。
何故僕がにそんな気持ちを抱くのか、僕自身にもよく判っていない。
けれど、その感情に名前をつけるならば、独占欲とかいうものになるんだろう。
「またね」と言ったの哀しそうな顔を思い出して、申し訳なくなった。
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20060908