彼 の 者 の 血 を 受 け 継 ぐ 少 女
異国の地に舞い降りた一人の魔女の物語





両親に手紙を出すため、梟の小屋へと歩いていたとき、人気のない廊下から以前見たことがある一人の女の子が出てきた。
私の視線が彼女のそれと合った。同級生と並ぶと、その酷く幼い顔立ちが際立つ、極東からやって来た黒髪の異邦人。





20 SideB 新たな出会い

「おはよう」

にこやかに挨拶をすると、彼女も戸惑いがちに返した。
それにしても、彼女はこんな薄暗い廊下に何の用があったのだろう。聞こうか聞くまいか迷っていると、彼女は恐る恐る、といった表情で私を見た。

「貴方は、その・・・、ネクタイから察するにグリフィンドールのようだけど、スリザリンを嫌いではないの?」

私は首を縦に振った。

「確かにスリザリンは私にとって、余り好きになれない寮だけど・・・、貴方は別よ」

出来るだけ明るく言うように努めた。彼女は余りにも暗い表情をしていたから、私はそれを払拭したかったのだ。
彼女は暗い表情から驚きの表情に変えた。私は少し嬉しくなった。

「この前の、・・・貴方にとっては苦い記憶かもしれないけど、貴方とブラックの一件を見ていたの」

彼女は肩を震わせた。申し訳なく思ったが、私は続けた。

「グリフィンドールの人たちは挙って貴方を非難したけど、私は貴方の言っていたことが正しいと思ってるし、私は貴方のあの言葉が嬉しかった」
「何故・・・?」
「私、マグル出身なの」

彼女は「あ」と短く言葉を発した。

「マグルは純血主義者から不当な差別を受けてきたし、今も受け続けてる。私も、スリザリンの純血主義者には色々言われてきたわ。まだ入学してニヶ月ほどしか経っていないのに。でも、あんな風に純血主義を一蹴してくれたのが嬉しかった。それを言ったのがスリザリンの人だと知って、もっと嬉しかったわ」

ひんやりとした廊下に太陽の光が差し込み、廊下に澱んでいた冷気が徐々に明るいところへと流れ出る。朝早いために、人は誰も通らない。沈黙が冷えた空気によってより重く質量を増やす。
私はその中でもできるだけ明るく努めた。彼女はまだ動揺しているようだった。

「あ、その、そんなことを言われるとは思ってなかった」

恥ずかしそうに俯いた。口元には照れ笑い。
良かった、居心地が悪いとは思っていないようだ。はにかむ様子が可愛らしい。
彼女はヨーロッパにはあまり見られない、東洋独特の顔立ちをしている。髪の毛は黒く、双眸は茶。同級生たちの中でもひと際目立って小柄で華奢な身体に、スリザリン、グリフィンドールの両方からの中傷に堪える力が何処にあるのか。私には不思議でならない。

「私、梟小屋へ行くつもりなのだけど、一緒に来ない?」
「良いの?」
「勿論!じゃ、行きましょう、えっと・・・」

私は有無を言わさず彼女の手を取った。

「私はリリー、リリー・エヴァンスよ。貴方は?」

彼女に名前を聞いていないことにやっと気付いた。
私自身、自己紹介もなにもしていなかったから、彼女が驚いたのは、私が名乗りもせずいきなり慣れ慣れしく話し掛けてきたからなのかもしれない、と少し反省した。

。よろしく、」
「リリーって呼んで、
「喜んで。リリー、これからよろしく」

は表情に、先ほどの戸惑いや驚きと言った感情は一切見えなかったし、さっきまでの動揺を全く見せることはなかった。
やはり最初に自己紹介をしておくべきだったと、酷く後悔の念を覚えた。

彼女に会えた。
それが嬉しくて、私は少々自分を見失っていたのかもしれない。私は大いに反省した。

 



20060825