彼 の 者 の 血 を 受 け 継 ぐ 少 女
異国の地に舞い降りた一人の魔女の物語





19 Side B 不機嫌の理由



シリウスは荒れていた。
今日一日、不機嫌な表情を隠すこともせず、イライラとした雰囲気を漂わせていた。
何があったのかとグリフィンドールの仲間たちは訝しげに見ていたが、触らぬ神に祟りなしと言わんばかりに、誰もが遠巻きに様子を窺っているだけだった。
ジェームズとシリウスは、魔法の腕やその整った容姿のために有名になりつつあり、彼らはよく声を掛けられたりするのだが、今日に限りそれはなかった。ただ、僕がシリウスと一緒にいないときに、何があったのかを聞きに来る人はいた。
直接本人に聞きに行こうとする勇気ある者は、例え勇敢な者が集うとされるグリフィンドールにもいなかったようだ。


「で、何をそんなに怒ってるのさ」

ジェームズが不機嫌そうに僕に聞いた。
彼が不機嫌なのは、今日一日シリウスのせいで、周りがまるで僕らが腫れ物であるかのように扱ったからだ。
常に目立ちたがり、人気者でい続けたいジェームズにとって、今日のみんなの、僕らに対する接し方が非常に許せないものだったんだろう。

「その・・・、あの子と、また何か揉めたの??」

ピーターが、今日一番の被害者だと、僕は思う。今日の彼は、何か一言発するにつけて、シリウスに過剰に気を配っていた。それでもシリウスはピーターに八つ当たりするものだから、彼は本当に怯えていた。シリウスがいない今は、彼は今日一番安心して発言できる時間なのだろう。

がシリウスの謝罪を受け入れなかったんだ」
「それはまた、どうして?」

ジェームズが不思議そうに尋ねた。

「シリウスが謝るなんてそう滅多に見られないことだよ。それを見ることができただけで、大抵の女の子はシリウスを許してしまうと思ったんだけどねえ」

ジェームズはシリウスの荒れっぷりについては、あまり堪えていないらしい。元々、ジェームズはいちいち何かにつけて驚いたりするようなことはしないタイプだ。四人の中でも、シリウスの荒れ様を見て一番冷静で変化のなかったのがジェームズだった。彼はいつも通りシリウスに茶々を入れたりして、僕らの肝を冷やした。

「でも、シリウスの謝り方は僕が見てても酷いものだったよ」
「へぇ、どんなの?」

ジェームズは興味津津に聞いた。内から溢れる好奇心を抑える気は全くないようだ。
ピーターも少し気になるようだ。言葉には出さないが、僕の様子を窺っている。

「・・・こんな感じ」

そう言って、僕は頭だけほんの少し下げて、直ぐにまたそれを上げた。
ジェームズは吹き出した。
ピーターは驚いて目を丸くしている。

「シリウスは、本当にそんな謝り方をしたの・・・?」
「ははは!シリウスらしいな!」

何が面白いのか、ジェームズは笑うことを隠しもしない。

「そりゃあ、あの子も怒るよ」

ピーターの言う通りだ。僕もそう思った。
こんな謝罪は謝罪じゃない。誠意を感じられなくて、怒るのは寧ろのほうだ。


ああ、は怒っていたのかもしれない。シリウスのように表に出すことはしないが、実は心の内ではシリウス以上に怒りを覚えていたのかもしれない。
あの無表情がその現れだったのではないだろうか。
シリウスの怒りが動だとすれば、のそれは静だ。
シリウスのは外へ外へと発散できるから徐々に怒りが収まるのに対して、の怒りはどうだ。それは内へ内へと行くばかりで、発散されることはない。

は、大丈夫だろうか。自分の内で蠢く怒りに呑み込まれたりしてないだろうか。


僕は、彼女に対して申し訳なさでいっぱいだった。

 



20060819