彼 の 者 の 血 を 受 け 継 ぐ 少 女
異国の地に舞い降りた一人の魔女の物語
18 Side B 地雷
あまり人気のないところで、僕たちは対峙していた。
シリウスはスネイプがいなくなったことで明らかに殺伐とした雰囲気が取り除かれた。それに気付いたは苦笑した。
「君、そんなにスネイプが嫌い?」
「大嫌いだ」
そう吐き捨てた。
まるで親の仇でも考えているかのように顔を歪ませ、苦々しげに。
「で?」
はシリウスに問い掛けた。シリウスは暫く躊躇っていたが、やがて決心したようにの目を真っ直ぐ見つめた。
暫しの沈黙。
「あの時は、俺が全面的に悪かった」
シリウスは頭を下げた。
と言っても会釈程度しか下げず、しかもさっさと頭を上げてしまった。
それは謝っているとは言わないよ、と目で伝えようとしたが、シリウスはこちらを見なかったから、伝わりようがなかった。
は無言で表情を全く変えなかったが、ふうと息を吐き出した。
「別に、謝ってくれなくても良かったのに」
「何だよ、こっちだって散々迷って頭下げに来たんだから、それ相応の対応ってもんがあるだろ」
シリウスは不満げだった。
迷っていたのは僕もよく知っている。だから彼がそう思うのも無理はない。
けれども、あのときはシリウスが悪いのだから、そういう立場の彼がこんな態度を取ってはいけないのではとも感じた。
けれど、はそのシリウスの失礼極まりない態度に全く動じていなかった。
「謝ろうが謝るまいが、関係ないってこと。私はどれだけ謝られようが君を許すつもりはないよ」
その言葉に、シリウスよりも僕が反応した。
「??」
「言葉の通りだよリーマス。彼がこの間言った言葉は私の両親に対する最大の侮辱と私が感じた。許せるはずがない」
「な・・・んだよ、謝ってるんのに何だよそれ!」
シリウスの激昂にも動じず、は淡々と続けた。
「君は言ってはいけないことを言ってしまったんだよ、ブラック。私にとってそれは非常に許し難い言葉だった。だから許さない。判る?」
「やってられっか!」
シリウスは舌打ちすると大股でその場を立ち去った。はそれを冷やかな目で見つめた。
予想だにしていなかった、まさかがシリウスを許さないなんて。
自分に向けられていた優しさや笑顔を、シリウスにも同じように向けてくれると思っていたが違った。よく考えてみればごく当たり前のことだ。あれだけのことを言われて、すんなり許すことができる筈がない、況してや、こんないい加減な謝罪をされては。
「どうしても許してもらえない?」
「少なくとも、彼が本当に申し訳ないという気持ちを示してくれないと、許さないよ」
キッパリと言い切った。けれど、少し考える素振りを見せた。
「ごめん、折角こういう場を作ってくれたのに、私の勝手で許さないとか・・・」
どうしてが謝るのだろう。
明らかに悪いのはこちらだ。やはりは優しかったんだ。
思えばは、僕らが謝る場面だと認識していないような場面で謝罪を言ったりすることがある。こんな風に、明らかに自分に非がないときでも、普通お礼を言うときでも、謝罪を言うのだ。
それを指摘しようとした。
でもはそれじゃ、と短く言うとスリザリンの寮のほうへと歩いていった。
結局和解はできなかった。
判ったことは、シリウスはの強力な地雷を踏んだということだ。
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20060811