彼 の 者 の 血 を 受 け 継 ぐ 少 女
異国の地に舞い降りた一人の魔女の物語





17 Side B 一触即発


「おいシリウス、がスネイプと一緒にいるぞ」

ジェームズはスリザリンのテーブルを興味深げに観察するような目で見つめている。
ジェームズの視線を辿ると、確かにあんまり笑顔を浮かべずに並んで朝食を取っている二人が見える。俺は少し憤りを感じた。

「俺、やっぱ謝るの止める」
「何で!?」

俺の言葉に過剰とも言えるぐらいの反応を示したのはリーマスだった。怒り、というよりは戸惑いの気持ちを抱いているようだった。

「昨日謝るって言ったじゃないか、まさかスネイプと一緒に朝ご飯を食べていたってだけで・・・」
「そのまさかだよ」

俺はウンザリしたような気持ちを込めて返した。
チラと再びスリザリンのほうを見る。
楽しそうな様子とはとてもじゃないが言えない、そんな雰囲気があったが、それでもスネイプと会話していることに変わりはない。
ムカムカとした気持ちが湧き出てくるのが自分でも判った。

「俺はアイツが嫌いだ、だからあんなヤロウと話をするやつなんかアイツと同類だ!そんな奴に謝罪なんてできっかよ」
「それってさんは全然悪くない・・・」

尤もだが、俺にとっては不愉快この上ない言葉を発したピーターを鋭い目で一瞥すると、ピーターは肩を震わせ硬直した。

「ピーターを脅かしても仕方ないだろ、それよりも、本当にそんな子供じみた理由で謝ることを止めるという訳じゃないよね?」

リーマスは小さな子供に言い聞かせるように語尾を上げた。疑問形の文章だが、それにはリーマスの、「謝れ」という強い意志が込められているのが容易に判った。リーマスは普段は人畜無害な表情を浮かべてヘラヘラ笑っているのだが、怒りを覚えると、この四人の中で一番怖いんじゃないだろうか。

「何回言っても判らないようだから、もう一度言わせて頂きますけどね、「俺は謝らない」、判ったかリーマス」

俺は不貞腐れてしまった。
朝からスネイプの顔を見ただけなのに、もう機嫌がどん底だ。その上こんな些細なことで言い争って、機嫌は悪くなる一方だ。
機嫌だけじゃない。この場の空気も段々重苦しくなっていく。

「でもさ、」

ジェームズがぽつりと言いかけた。

とスネイプ、傍から見てると全然仲良しに見えないね。淡々と用件だけ話してるような、そんな雰囲気じゃない?」

ピーターはジェームズの言葉にうんうんと深く頷いた。

「僕も思った、何だか二人とも仏頂面だし、先生と生徒の会話でもあれよりは和やかに見えるよ」

ピーターには珍しく多くの言葉を発した。
いつもは言葉がつっかえて、彼が言いたいことの恐らく半分も言えずに終わることが多い。

「とにかく、この前のことは明らかに君が悪かったんだから、どんな理由があろうとも、一言謝るのが筋というものだろう、そんな身勝手な理由で謝罪しなくて良いなんて理屈は罷り通らないよ」

立て板に水を流すかの如くすらすらと流れるように話されても、俺には俺にしか判らない「越えたくない線」というものがあるのだ。

「ね、行こう」

リーマスは立ち上がった。そして俺をじっと見た。
俺は暫く、俺にとってはかなり冷静に考えてから、やっぱり俺が悪かったと結論付けて、渋々立ち上がった。
本当は死ぬほど行きたくないところ、スリザリンのところに向かった。





彼女は心底驚いた表情をしていた。
スリザリンがグリフィンドールを嫌うように、グリフィンドールもまたスリザリンを嫌っているから、僕が彼女の友人だといってもスリザリンの中に単身(今は二人だが)で乗り込むことは余り心地好いものではない。
事実、グリフィンドールカラーの赤と金のネクタイを締めた二人の男子生徒を見て、スリザリンの生徒たちは眉を顰めたりひそひそと声を潜めて話し合ったりしていた。だがそれはグリフィンドールのテーブルにスリザリンの生徒がやって来てもグリフィンドールの生徒は同じことをやるだろうから、僕は別段気に留めてはいなかった。不愉快ではあるが、仕方がないことだと納得した。
しかしシリウスは明らかに青筋を立てて、一触即発の雰囲気を漂わせている。スネイプが何か余計なことを言ったら、また爆発してしまうのではと気が気でならなかった。

「何か、用」

は明らかに動揺している。言葉がたどたどしく紡がれる。
無理もない。こっちは謝罪のために来たつもりだが、シリウスのこの殺気立った雰囲気は、謝罪の文字を思い浮かべさせない。
隣にスネイプがいることも不味かった。僕は早まったかもしれないと思いながら、シリウスの肘を小突き、「顔、怖いよ」と囁いた。「ああ」と短く返事するものの、その刺々しい雰囲気に大した変化はなかった。
僕はやれやれという表情をした。

「この前のことを謝りに来たんだけど・・・・・、ごめんね、シリウスがこんな怖くて」

チラとシリウスを盗み見ると、目が合った。
怖いとはなんだと目が言っていた。
事実なのだから仕方ないじゃないかと心の中で毒吐く。シリウスは今度はスネイプのほうへと視線を移動させた。

「・・・別のところで話そうか、スネイプも気分が悪いようだし」

呆れたようには提案した。
なるほど、スネイプを見てみると、あからさまではないがやはり僕たちが来たことにより不快感を覚えているようだ。
彼はスリザリングリフィンドール云々以前に、僕らのことが嫌いなのだ。特に、シリウスのことが。

「じゃ、また後で」

はそうスネイプに言ったが、彼は返事しなかった。
やれやれと肩を竦め、は食堂の出口へと向かう。僕たちもそれについて行った。

 


前半はシリウス、後半はリーマス視点。

20060807