彼 の 者 の 血 を 受 け 継 ぐ 少 女
異国の地に舞い降りた一人の魔女の物語
11 沸沸と込み上げる喜び
私の元に一羽の梟がやって来た。
私は日刊予言者新聞は購読していないし、両親もいないから私に梟を出す人なんて、侑子さんぐらいのものだ。
侑子さんからの手紙だと予測し、封を開けた。
「・・・・・・?」
どうやら違うようだ。
読み進めて行くと、それはリーマスからの手紙だということが判った。
『こんにちは。暫く母の病気のために一時帰宅していましたが、容態も良くなったので昨日帰って来ました。心配かけてすみません。ところで、今日授業が終わったら図書室で一緒に宿題や勉強をしませんか?良ければ、四時に図書室に来てください。返事は不要です。リーマス』
そう言えば、最近全然予習や復習をしていない。宿題はするけれども、それだけだ。
まだ予習などしなくとも、大して難しいことをしている訳ではないから大丈夫だろうが、そういう癖をつけて置かないと後でしんどいのは目に見えている。
それに今日はリーマスも一緒だ。久し振りにリーマスと会えるのが嬉しい。
チラとグリフィンドールのテーブルの中にリーマスの姿を探した。彼は直ぐに見つかった。
彼も此方を窺っていたらしい、目が合った。ニコリと微笑むと向こうも笑い返した。一緒に勉強しようという気持ちを込めたつもりだが、彼に伝わっていたら良い。
リーマスは疲れた顔をしていた。病気なのは彼の母親なのに。よほど危険な容態だったのだろうかと心配になる。一時帰宅するほどの病気なんて、よほど性質の悪い病気なのだろう。
どうか、彼から母親を奪わないでと、母親を向こうに連れて行かないでと、あの世にいる筈の私の両親に頼んだ。
私は授業が終わると、真っ先に教室を飛び出し、スリザリンへと急いだ。早口に合言葉を言うと、開いたドアを素早くすり抜けて、自分の部屋へと走った。
私は四時よりももっと早くに図書室に着くように寮を出た。そもそも寮で過ごすことは好ましくなかったから、いつも図書室へ行って宿題をしたり本を読んだりしてはいた。それは寮にいないで済む、というのもあったが、それよりもリーマスに会えるかもしれないという気持ちのほうが強かった。この学校でまともに口を利いてくれるのはリーマスだけなのだ。
最近は図書室にいてもリーマスの姿を見つけることができなかったから、一日中一言も口を聞かずに過ごす日も珍しくなかった。無論、私はそれを良しとはしていない。だからこそ、友人を増やしたほうが良いのだろうが、スリザリンに私と友人になってくれるような人間はいないし、スリザリンと友人になってくれるような人間などリーマス以外に知らない。
待ち遠しかったリーマスに会える。その気持ちが私の心を明るくした。自然と笑みが浮かんできて、堪えるのが大変だった。
約束の三十分前に着いたのだが、リーマスは既にそこにいた。これでも早く来たつもりだった私は、驚きとほんの少しの悔しさを覚えながら、彼に声をかけた。
「リーマス」
「!」
リーマスは少し大き目の声を出してしまって、しまったという顔をしてから口を堅く噤んだ。マダムピンスはこちらをジロリと睨んだが、追い出すつもりはないようで、私たちはほっと息を吐いた。
それからの私たちは黙々と勉強や宿題を進めた。人は疎らにしかいない。リーマスとは言う程たくさんの会話はしなかったのだけど、一緒にいるだけで何だか安心できた。
スリザリンの中では、隙を見せたら喰われてしまう、という訳ではないが、それに近い緊張感を持って過ごしていたから、心休まるときがなかった。今日は久々に安堵感を感じられた。
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20060722