彼 の 者 の 血 を 受 け 継 ぐ 少 女
異国の地に舞い降りた一人の魔女の物語





9 嫌悪感を帯びた接触

ある日、彼がいつもつるんでいる友人の中に、リーマスの姿がないことに気付いた。どうしたのだろうか。気が緩んで疲れが出たのだろうか。

私は彼らの元に行ってリーマスがどうしたのか聞きたかった。しかし私は彼らに近付きたくはなかった。話もしたくなかった。何故ならば避け難い問題があったのだ。彼らがリーマスのようにスリザリンの私を見てくれるとは限らないのだ。

スリザリンだというだけで、グリフィンドールの人々は眉を顰めて顔をしかめる。私がリーマスに近付くだけで、グリフィンドールは私を睨み、スリザリンは私に対する悪態を吐く。自分に対して少しの好意すらないグリフィンドール生に私が話し掛けることは、グリフィンドール生の嫌悪感を煽ることにしかならないのは明白だ。だから、私が今から話し掛けようとしている人達は、リーマスのように私を好いてくれている筈がないし、私のことを知ってもいないから、他のグリフィンドール生と同じような態度を私にするだろう。そこまで判っていながら、話し掛けるというのは随分勇気の要ることだった。

しかし・・・。

私は意を決して、授業の教室へ行くため歩いている三人の男の子に近付いた。



自分たちに近付く私に気付き、そして私の首元にぶら下がっているスリザリンカラーのネクタイに目を遣り、表情を歪ませた。あからさまな態度に、私の気分は悪くなる。私たちの間に緊張が走った。

「リーマスの姿が見えないのですが、どうしたのか知りませんか?」

できるだけ丁寧に、確認するように言葉を発す。あまりぶっきらぼうだったり、不機嫌さを露にすると、向こうが問いに答えてくれないばかりか、避けられる筈の諍いを引き起こしてしまいかねないが、彼らの態度を見た後でにっこりと笑う気にもなれないから、できるだけ無表情で事務的に、淡々と見えるように努めた。

「何だよおまえ」

黒髪の男、恐らく彼がシリウス・ブラックだ、彼が苦々しげに呟く。まるで親の仇でも見るかのように。まさかいきなりそのような返答をされるとは思っていなかったので、表には出さないが内心驚く。見ず知らずの人に対する対応にしては随分だ、と怒りを覚えたが、私がスリザリンだから仕方がない、とこの学校の悪習を受け入れ始めている自分に気付いた。

「申し遅れました。私はといって、リーマスと仲良くしてもらってる者です」
「嘘だろ!」

私の説明に即座に反応してくださったのは、眼鏡の少年だ。恐らく彼がジェームズ・ポッターなんだろう。三人の中で彼だけが唯一眼鏡をかけていた。そしてリーマスも、眼鏡をかけているのがジェームズ・ポッターだと言っていたのを思い出した。

「じゃあ君がリーマスが言ってた・・・」

彼らの中では一番背が低い・・・多分、ピーター・ペティグリューが私の言葉に説得力を与えてくれた。私は心の中で彼に、思いつく限りの礼を言った。

「リーマスがスリザリンの女と?嘘だろピーター」
「ほんとうだよシリウス、リーマス言ってたよ、って」

彼が何の意図で私のことをペティグリューに話したのかは知らないが、結果的に私の話に真実味を持たせることになったし、私の立場を有利なものに変えてくれたから、まあ良しとしよう。彼らの中には軽い混乱が見て取れた。私のほうとしては、リーマスがどうしたのかが聞けたら後はどうでも良いのだが、彼らの中ではそううい訳にはいかないようだ。

「あの、リーマスは・・・」

私が口を開くと、ブラックは私を睨みつけ、ポッターは疑うような目を私に向け、ペティグリューは躊躇いがちに口を開いた。

「リーマスは、お母さんが病気らしくて、一旦家に帰ったよ」
「そう、ありがとうございます」

私は深々と頭を下げた。それが聞けたらもう彼らに用はない。私とリーマスの間柄をあれこれ議論する彼らを置いて、私は変身学の授業の教室へと急いだ。



 

20060713