彼 の 者 の 血 を 受 け 継 ぐ 少 女
異国の地に舞い降りた一人の魔女の物語
7 回顧―オリバンダーでの杖選び―
紀元前から続く老舗「オリバンダーの店」に、私とダンブルドアさんは入った。埃っぽくて、薄暗いカウンターの向こうには大量の箱が積み上げられていた。店主のオリバンダーさんはダンブルドアさんを見ると、はっとして小さくお辞儀をしてから、私を見た。
「それではお嬢さん、杖腕はどちらでしょう?」
「えっと、利き腕は右ですけど」
「判りました、では右腕を出してください」
私が腕を出すと、カウンターの上に置かれていたメジャーがひとりでに動き出し、私の身体の様々な部分を測り出した。何て便利な道具だろう、幾ら払えば譲ってくれるだろう、と銀行の金庫に保管された大量の貨幣を想像しながら考え、すぐに金で何とでもなる、という考えを一瞬でもしてしまったことを恥じた。あのお金は私のものではなくて、私の父が遺してくれたもの。私が好き勝手に使って良いものではない。
私はたくさんのお金の映像を脳から何とか追い出そうとし、気持ちを引き締めた。
そんな葛藤など知りもしないオリバンダー老人は、箱をひとつ持って来た。恐らく積み上げられた箱の下のほうにあったのだろう。厚紙で作られた箱はよれよれで、見ているこっちが気の毒なほどだったが、箱があるだけまだマシなのだろうと考え直した。
「樫の木、人魚の鱗、二十八センチ、堅くて丈夫」
オリバンダーさんはその杖を差し出した。
「どうぞ、振ってみてください」
どう振れば良いのか判らなかったが、サリーちゃんがしていた振り方を思い出し、それを真似して振ってみた。
ガラガラガッシャーン!!
店の入口付近に置かれていた置物が、床に勝手に落ちた。タイミングからして、それは多分私が杖を振ったから、なのだろう。何が悪かったのか、やはりサリーちゃんではダメだったのだろうか、それならば何なら良いのか。頭の中で思案した。
「す、すみません・・・」
「いえいえ、構いませんよ、さて、これはどうでしょう・・・」
そんな調子で、何本もの杖を試してみたけれど、マトモな結果を生むものはなく、いい加減右腕が疲れてきた。げんなりしながら、うーんと考え込む店の主をぼうっと見ていた。
「うーん、ではこれはどうでしょう」
彼は厳かな表情で一本の杖を持って来た。
「桜の木、ドラゴンの髭、二十五センチ、強力な魔法に最適」
この杖は、他のどんな杖よりも異質なものだった。異邦人、という言葉を思い出させるような。まるで私のような。私の表情に気付いたのか、オリバンダーさんはしみじみと話し始めた。
「この桜の木は、止むを得ず切られてしまった老樹から切り出したものなのです。そしてこのドラゴンの髭とは、日本の青龍から提供してもらったものです。この青龍は髭を二本だけ与えてくださった。これが貴方にぴったりの杖だと、私も貴方も確信しています。さあ、振って御覧なさい」
私はそっと杖を手に取った。
畏怖の気持ちを持って、私は杖を振った。
杖の先端から青い光が放出されたかと思うと、それは店中を駆け巡り、壊れてしまったものを綺麗さっぱり元通りに修復してくれた。私は暫し放心状態だった。思えば、私はこのとき初めて魔法を使ったのだ。
私はこの杖を買った。
それから、ダンブルドアさんに9と4分の3号線の切符を貰い、別れた。
次に会うときは、校長と生徒だ。
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20060708