彼 の 者 の 血 を 受 け 継 ぐ 少 女
異国の地に舞い降りた一人の魔女の物語





6 回顧―ホグなんたらへの入学と道具の購入―

「あの…えーと、御老人…」
「おぉ、そう言えばまだワシの自己紹介がまだじゃったな、すまぬ。ワシの名はアルバス・ダンブルドア。ホグワーツ魔法魔術学校の校長をしておる」
「ホグ…?」
「ホグワーツよ、

私が言い淀んだ言葉を、横から侑子さんがサラリと言い直した。

「ホグワーツとは魔法使いの子供が魔法などを学ぶ学校じゃ。そして今日はおぬしにこの手紙を渡しに来た。渡すだけならふくろう便で事足りるのじゃが、おぬしが成長した姿をどうしても見たくて、お忍びでやって来たのじゃ」

ふくろう便、という未知なる単語がまたもや登場した。いずれどういう意味なのかは判るのだろうが、それにしても今日は新しい単語がたくさん出てきて大変だ。



ダンブルドアさんは一枚の封筒を差し出した。私はその封筒を恐る恐る受け取った。

「開けて御覧なさい」

侑子さんに促されて、私は封を切った。
そこには、英文がずらずらと書かれていた。
私は思考と体を硬直させた。

「・・・英語は読めません」
「そうじゃったそうじゃった、すまんかった。今読めるようにするからの」

ダンブルドアさんは懐から細い棒のようなものを取り出し、何事か唱えて棒を振ると棒の先端が光を発し、その光が手紙に向かってきて、手紙を包み込んだ。光が収束してから再び手紙を見ると、そこには日本語で書かれた文字がずらずらと書かれていた。

「ははぁ、これが魔法、ということですか」
「その通りじゃ」

フォッフォ、と愉快そうに笑うダンブルドアさんを尻目に、私は手紙を読み始めた。

「親愛なる殿、このたびホグワーツ魔法魔術学校にめでたく入学を許可されましたこと、心よりお喜び申し上げます。教科書並びに必要な教材のリストを同封いたします。

新学期は九月一日に始まります。七月三十一日必着でふくろう便にてのお返事をお待ちしております。」

と書かれていた。
七月三十一日ってもうあと少しじゃないか。
またふくろう便なんて出てくるし、私は目だけを動かして頭の中で色々考え込んだ。

「ふくろう便、などと書いておるが、今わしに言ってくれれば良い。行くか、行かぬか。今すぐ決められんのならそれでも構わんが・・・」
「いいえ、行きます、それは決まってます」

ダンブルドアさんの言葉に被さるように私は答えた。

魔法を使いたい。
父の通っていた学校へ行ってみたい。

その思いはさっきよりも大きくなっている。

「では教科書や教材を買いに行かねばならんのぅ。明日は予定は空いておるかな?」
「はい、大丈夫です」
「それならば結構。明日の正午頃にまたやって来るから、用意して待っておってくれ」
「はい!」

満面の笑みで返事した。
ダンブルドアさんは満足そうに大きく頷いた。




次の日ダンブルドアさんが再び店を訪ねてきた。私は買い物と聞いて、恐らくかなり歩かなければならないのだろうと推測し、履き慣れたスニーカーを用意した。

侑子さんの店にある「ポートキー」とやらを使って、私はロンドンへ飛び、そこからダイアゴン横丁へと向かった。魔法使いしか居ない場所。ロンドンに、こんな場所があるとは思いもしなかった。三角帽を被り、ローブを身に纏う外国人がたくさんひしめいていた(ここでは私が外国人という立場にあるのだが)。
ロンドンに行く、と聞いて「私はパスポートを持っていない」と言ったが、魔法界はマグルの世界よりも寛容、悪く言えば大雑把で、パスポートや許可証などなくとも自由に国同士行き来できるという。マグルの世界のルールは魔法界には通用しないから、私もパスポートなど必要ないのである。グローバル化、などとマグルは唱えるが、魔法界のほうがよっぽどグローバル化が進んでいるじゃないかと浅はかに考えた。

私は教科書をフローリシュ・アンド・ブロッツ書店で買ったり(この時『誰でもわかる!カンタン魔法史マスター』も買った)、マダムマルキンの洋装店で制服を作ってもらったり、魔法薬学に必要なものを買ったり、翻訳のためのピアスを買ったりした。お金の心配は要らなかった。父がグリンゴッツ銀行に資産の全てを預けていたらしい。目が眩むような大量の貨幣に腰が抜けそうだった。

最後に私たちは魔法使いにとって無くてはならないもの、・・・・・・杖を買いに行った。



 

20060708
20070319 一部改訂