私は寮に着くと、一目散にベッドへ身体を投げ出した。
何なんだこの寮は。
この寮の人間は私をひたすら疲れさせた。






彼 の 者 の 血 を 受 け 継 ぐ 少 女
異国の地に舞い降りた一人の魔女の物語





5 純血主義と云う非常に下らない考え

組分けが終わった後、夕食となった。一年生は目に見えて緊張していたが、上級生はそれを微笑ましく見たり、話し掛けたりしていた。私は食べたことのないような料理を楽しんだ。しかし、甘いお菓子はこれでもかという程甘くて、私の口には合わなかった。

リーマスのところへ行きたかったのだが、最初ぐらいは自分の寮で食べないと失礼かもしれないという気持ちが先立って、結局スリザリンのテーブルで食べていた。



そんなことを思いながら、ローストチキンを口に運んでいると、隣に座っていた女の子が私に話し掛けてきた。ローラ・サージェントというその子は、私の自己紹介もそこそこに、捲くし立てるように話し出した。

家?私は貴方の家をよく知らないわ。貴方は私の家のことを知ってる?知らない?そう、でも大丈夫、これからどんどん知ることになるわ。私の家族もみんな魔法使いなの。全員スリザリンよ。私もスリザリンになるだろうとは予想していたけれど、万一違うところに入れられたらどうしようかと思っちゃった」

一気にこれを言ったのだ、彼女は。
息継ぎなど全くすることなく。
スリザリンばかりの家族を自慢したかったのか、それとも自分の家族がみんな魔法使いだということを言いたかったのか、よく判らない。しかし、私はその言葉を聞いて脳に一瞬留めたが、すぐさまその大部分を削除してしまった。他にもたくさん覚えることがあるのだから、いちいち自慢なんて覚えていられないというのが本音だ。

「へぇ、すごいね」
「ありがとう。私の家って代々続く由緒正しい家柄だから、有名なところとの付き合いも多いの。マルフォイ家とか、クリスティ家とか!まだまだたっくさん!父は魔法省に勤めてて、偉い人達とのコネもあるの。だからお金には不自由していないわ。最近は純血の魔法使いが少なくなってきているけど、だからと言ってマグルの血を入れるなんてどうかしてるわ。貴方もそう思わない?あんな穢れた血なんて、ホグワーツに入れるのも不思議だわ。全くもって不愉快よ。私達偉大なる魔法使いとマグルが同列に扱われるなんて、嘆かわしいったらないわ!」

私はずっと目の前のチキンに集中していたにも関わらず、そんな私に気付かず、またもや一気にこの量の言葉を言い切った。
彼女は何らかの試練を自分に課すことがブームなのだろうか。
そうでなければ、息継ぎもなしにこんな量を喋ろうとは思わない筈だ。

「うん、そうだね」

全く感情を込めることなく淡々と返事したのだけど、彼女はそれだけでも充分なようだった。ご満悦といった表情で、漸くお皿に載っていたソーセージを一口食べた。

これはほんの一例である。
私に軽くあしらわれていることに、これから約十五分後にやっと気付いたミス・サージェントは、今度は別の子に目をつけ、同じようなことを喋りかけていた。私はというと、やはりまた彼女と同じような子に掴まり、同じようなお家自慢を延々聞かされ、あしらわれていることに気づき相手が去っていく・・・という循環を三回ほど続けたりしていた。

本人は満足しているのだ。
言いたいことを喋ることができて。
口数の少ない私は、いわばカモだった訳だ。
でも、耳元で何か喋ってようが喋っていまいが、私は食事を楽しめたから、大した被害がある訳でもないので、さほど怒りを感じてはいない。寧ろどっと疲労感が押し寄せてきた。夕食を食べただけだというのに。




夕食会が終わると、私たちは監督生に引率されて、スリザリン寮へ行った。上級生達にとっては「帰る」なのだろうが、私たちはここに来たことがないから、「行く」という感覚なのである。一年も経てば、今から初めて入る寮も自分の家のような感覚になるのだろう。

監督生は慣れたように人込みを器用にすり抜ける。慣れていない私たちは彼に必死について行った。

寮に入り、自分の部屋へ入ると、最初の通りベッドに倒れ込んだ。
体力的に、というよりも、精神的に疲労困憊していた。
私はそのまま眠りに落ちた。



 


20060706