彼 の 者 の 血 を 受 け 継 ぐ 少 女
異国の地に舞い降りた一人の魔女の物語





3 組分けの儀式、私は何処の寮なのかしら

あと三十分ほどでホグワーツの駅に着くというアナウンスが流れてから、コンパートメントの外は賑やかになった。私はそんな喧騒を、窓の外の景色を眺めながらぼうっとして聞いていた。

窓の外は、赤く染まる田園風景が流れていた。窓ガラスは鏡のように私の姿やコンパートメント内を薄っすらと映していた。


「そろそろ着替えたほうが良いね、僕外に出てるから先着替えなよ」

そう言うと、カエルチョコレートの入っていたケースはそのままにして、彼は立ち上がった。

「うん、わざわざごめん、終わったら呼ぶね」

彼は少し悲しげな笑みを私に向けた。




駅に着くと、新入生を案内する大男について行った。でこぼことして足場の悪い、周りを木で囲まれている小道を抜けると、湖があり、その向こうには大きくそびえ立つ西洋様式の城があった。湖面には雄大な城の姿が映り、微風が吹くたび湖に映る城がゆらゆら揺れた。
湖の岸辺には四人乗りの小船が繋がれていた。私とリーマスはその内のひとつに乗り込んだ。自分で漕ぐ必要はなかった。新入生全員がいずれかの小船に乗ったのを見届けた大男は、自身もその内のひとつに乗り込み、大声で叫ぶと、小船はひとりでに動き出した。

ふと空を見上げた。
日本にいたときは、こんなに多くの星を見たことはなかった。
城は森に囲まれていた。星の光を邪魔するような余計な光は全くなかった。




大男は城のドアを、その大きな拳でノックした。私たちがノックするよりも何倍も大きな音だった。扉が開き、出てきたのは見るからに厳格そうな初老の女性だった。彼女は男に「御苦労様です」と言うと、今度は私たちに「ここからは私が案内します。ついて来なさい」と言って、中に入って行った。

私たちは、彼女について玄関ホールを抜けて、恐らく全校生徒が集まっているであろうホールの脇にある小部屋へ私たちを入らせた。大勢の生徒が入るには、その部屋は余りに窮屈で、私は身を捩じらせた。彼女はひとつ咳払いをし、私たちをその厳しい目で見回すと、背筋をぴんと伸ばした。



マクゴナガルと名乗った先生は、ホグワーツには四つの寮が存在し、今からその組分けを行うことなどを説明した。そして身嗜みを整えて置くよう私たちに告げた。みんなは一斉に自分の姿を見直した。

「学校側の準備ができたら戻ってきますので、静かにして待っていてください」

先生はそう言うと、部屋を出て行った。途端に、小さい声ではあるけれど、生徒は口々に喋りだした。

、組分けの儀式ってどんなことをするんだろう・・・。試験とかだったら困るなぁ、何も勉強してないよ」

リーマスが少し青い顔をして、不安げに呟いた。
私はうーんと考える素振りをした。

「試験をするってことはないと思うけど。まぁ、例え試験だったとしてもさ、私も何も勉強してないから、二人で恥かこうよ」

私の飄々とした態度に、リーマスは幾分か不安が和らいだようである。顔に血の気が戻り、笑顔を見せる余裕も出てきている。

はどの寮に入りたい?」
「寮?うーん・・・」

寮は確か、グリフィンドール、レイブンクロー、ハッフルパフ、そしてスリザリンの四つ。しかし入りたい寮なんて判らない。それぞれの寮がどんなものかよく判っていないからだ。きっと寮にはそれぞれ特色があるのだろうが、私がそんなもん知る由もない。

「僕はグリフィンドールが良いな。グリフィンドールは偉大な魔法使いがいっぱい出てるって聞くし」
「へぇ、私は・・・どこでも良いや」
「どこでも・・・って」

リーマスは少し素っ頓狂な声を上げた。

「でも、スリザリンなんかは入りたくないだろう?」
「別に、どこでも・・・。私、それぞれの寮がどんな特徴を持ってるのか、よく判っていないから」

全然勉強してないから、と付け足すと、リーマスは苦笑いを浮かべた。



「行きますよ、ついて来てください」

あの先生の声がした。
どうやら学校側の準備とやらが整ったようだ。新入生は、その先生の後を一列になってついて行った。



 


20060706
20060709 一部改訂